ソロ・リサイタル
後編
「なんや?おんなじチームの奴?」
曲が終わった時に入ってきた二人に、鵜相は驚きの色を隠せなかった。
そして目の前の天国が、二人を前に緊張を解いたのも気に入らなかった。
「埼玉選抜チームの3年、緋慈華汰斗肢だ。
以降見知り置きいただくと嬉しいね。」
「…沖…です。」
「そうか、よろしくな。
大阪の蓮角や…こいつは鵜相。」
「わたっ。」
(一応)礼儀正しく名乗ってきた相手に蓮角も返事を返した。
ついでに鵜相の頭も下げさせておく。
一方的に無礼者になるのは蓮角には好むところでもなかったからだ。
それが気になる人間の前なら尚更のこと。
鵜相はそんなことまでは気が回る性格ではなかったが。
とりあえず先輩には従っていた。
多少の思惑が絡み合い、その場は特に険悪になることもなく穏やかな空気が流れた。
尤も、それは表面上の事…では、あるが。
(何やねんこいつら、いきなり入ってきよって…もうちょいこいつと話したかったのに。)
(チーム1可憐で可愛らしく多大なる人気を誇る猿野と勝手に話すとは随分と無礼な事をしてくれるものだ。)
(…にしても埼玉は派手な奴めっちゃ多ないか?)
(……ムカつく。でも猿野のピアノ…よかった…。)
水面下の思惑も知らず、天国はそろそろピアノをしまおうかとふたに手をかける。
それに気付いたのは緋慈華汰だった。
「待ってくれたまえ猿野。もう君の美麗で洗練された音をこの繊細なる緋慈華汰の耳には入れてくれないのかな?」
「…は?分かりにくいけど…聞きたいんですか?緋慈華汰さん。」
「あ…僕も…聞きたい…。」
沖も同調する。
「…ええんやったら、俺も。あと一曲くらい…。」
「オレもオレも!もっかいリクエストさせてくれや!」
せっかくのチャンスを逃すまいと大阪チームの面々も喰らいつく。
「そ…そっすか?んじゃあと一曲くらいなら…。」
少し照れながら、天国は要望にこたえることにした。
少年達がその照れる顔に萌えたのは、まあおいておこう。
「ああ、それなら今度はこの私緋慈華汰が優雅な音曲を選択したいものだね。」
早速とばかりに緋慈華汰は口を開いた。
しかし抜け駆けを放っておく高校球児はここにはいない(関係ないが)。
「…オレも聞きたい曲があるんやけど。」
蓮角も負けじと口を開く。
「あ〜オレもまだあんで!」
「…アンタはさっき頼んでたでしょ…。」
鵜相の言葉は沖が邪魔をする。
わらわらと議論になりそうになる。
天国は(原因が自分にあることも気付かず)見かねて言った。
「…んじゃジャンケンすれば?
公平じゃん?」
「おっしゃ望むところや!!」
「負けへんで。」
「…おっけー…。」
「え?ジャンケンは…。」
緋慈華汰は、ふと気付いたように言うが…。
「何や怖じ気づいたんかい、ほれさっさとやんで!」
「よし。」
「じゃ〜ん〜け〜ん〜…。」
「え、わ、ちょっと待…。」
「「「ぽん!!」」」
「あ〜〜〜!」
「…ちっ…。」
「…やっぱり…。」
にやり、
と、勝利者の霊感少年沖が笑った。
(沖君はジャンケンに負けたことがないんだ…私としたことが…;)
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「おっしゃ、沖のリクエストだな。何が良い?」
「最後やねんし、テンポええやつ聞きたいなあ。」
「…バラードでもクラシックでも俺はかまへんけどな…。」
「…沖君の好きな曲…ね…。」
緋慈華汰は一抹の不安を感じた。
そして、沖は言った。
「…筋○少女帯の…蜘○の糸…。」
「「はあ??!!」」
「蜘○の糸だな、よし!」
天国はさわやかに。
かなり夜中に似合いそうな歌を弾きだした。
やはり、音はきれいで。
弾いている天国の姿もとても、美しかった。
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「く〜ものい〜とをのぼってぇ〜 いつの〜ひにかみおろしてや〜るぅ〜♪」
「もやして〜やっる〜♪」
「…ナンナンダソノ陰気ナ歌ハ…。」
「ああ、気にせんでええっすよ雉子村さん♪」
「ちょっとな。」
「トニカク止メロ。気ガ滅入ルダロウガ。
ドコカラ聞イタ。」
「え〜教えなあきませんか?」
「…イイカラ言エ。黒光ノ的ニナリタイカ?」
「いえいえいえ!!わっかりましたって!!
これ、埼玉の4番がピアノで弾いてくれたんですよ!」
「埼玉ノ…4番ダト…。…天国ィイイイイイ???!!!」
そして新西宮ホテルの一室では一人絶叫し苦悩する兄がいたとかいないとか。
end
歌詞検索「うたまっぷ」様 曲目「蜘蛛の糸」筋肉少女帯
なんとか二日以内という約束を果たせました;
沖君を出したおかげで蜘蛛の糸オチでした(笑)いやあ大槻ケンヂ最高!
あまり天然ハン猿…というほどでもない話でしたが、読んでくださると光栄です。
隼人様、年単位でお待たせして本当に申し訳ありませんでした!
素敵なリクエストほんとうにありがとうございます!
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